日本キャリア教育学会のあゆみ
日本キャリア教育学会は、その沿革として日本進路指導学会、日本職業指導学会にさかのぼる。
1953年、本学会の前身である日本職業指導学会が誕生した。同年開催された日本職業指導協会(現、日本進路指導協会)主催の「職業・家庭科教育および職業指導全国研究協議大会(第3回)」(現、進路指導研究協議全国大会、2016度で第65回を迎えた)に出席した大学関係者を中心に日本職業指導学会設立が発議され承認されたのである。会則には、「機関紙は、当分の間、雑誌『職業指導』(現、日本進路指導協会発行『進路指導』…著者注)の一部をもってこれにあてる」とあり、『職業指導』の購読者を学会員とみなされた。『職業指導』の誌上にて学会員における研究論文の発表が行われた。日本キャリア教育学会と日本進路指導協会との関係は、ここから始まっている。同誌の「学会だより」はこの時期から続いている。
日本進路指導協会は、大日本職業指導協会として1927年にわが国最初の職業指導の研究、実践団体として設立されており、日本キャリア教育学会もその源をたどると1927年にさかのぼることになる。
その後、1978年、日本職業指導学会を発展的に改組することで日本進路指導学会が成立した。成立の契機になった、仙﨑武氏(現学会名誉会長)を提案責任者として1977年に提出された「日本職業指導学会のあり方に関する要望と提案」には、学会の発展的改組と、日本職業指導協会とは連携を保ちつつ主体性を確立・維持していくこと、研究紀要を発行することなどが盛り込まれていた。初代会長を故藤本喜八氏とし、130名の学会員で発足した。
日本進路指導学会は、毎年、研究大会及び研究セミナーの開催を続け、わが国の進路指導やキャリア形成の重要性が認識されるたびに拡大していく。
1988年、国際キャリア発達学会(IAEVG)のセミナーを東京で主催した。
1994年、キャリア・カウンセラー認定制度をわが国最初に発足させた。同年、アジア地区職業発達学会(ARAVG)の東京開催を主催した。
2005年、日本キャリア教育学会と改称し、さらなる飛躍を展開することになる。
2015年には、国際キャリア発達学会(IAEVG)研究大会及びアジア地区キャリア発達学会(ARACD)をつくば市で同時主催した。大会には527名(うち外国人数186名)の参加があり、日本を含めて38ヶ国が参加し、日本キャリア教育学会は、グローバル化へ大きな一歩を踏みだした。
日本キャリア教育学会は、現在1100名以上の学会員を抱える学会に成長し、IAEVGやARACDといった国際学会との連携を進めながらキャリア教育研究の国際舞台でも活躍している。
(文責 三村隆男)
※日本キャリア教育学会はIAEVG(国際キャリア教育学会)の団体会員のため、日本キャリア教育学会に入会しますと、同時にIAEVGの会員資格が付与されます(個人会員の資格とは異なります)。
日本キャリア教育学会歴代会長
- 1978-1981
- 藤本喜八
- 1981-1984
- 藤本喜八
- 1984-1987
- 仙﨑武
- 1987-1990
- 仙﨑武
- 1990-1993
- 仙﨑武
- 1993-1996
- 吉田辰雄
- 1996-1999
- 吉田辰雄
- 1999-2002
- 竹内登規夫
- 2002-2005
- 竹内登規夫
- 2005-2008
- 清水和秋
- 2008-2010
- 菊池武剋
- 2010-2012
- 菊池武剋
- 2012-2014
- 三川俊樹
- 2014-2016
- 三村隆男
- 2016-2018
- 三村隆男
- 2018-2020
- 下村英雄
- 2020-2022
- 下村英雄
- 2023-
- 藤田晃之
日本キャリア教育学会名誉会員
菊池 武剋 後藤 宗理 坂本 昭 竹内 登規夫 野々村 新 佃 直毅
本間 啓二 三宅 章介
日本キャリア教育学会(旧日本進路指導学会)による進路指導の定義
日本進路指導学会は1981年に定義委員会(委員長藤本喜八先生)を設置し検討を重ねた結果以下の「総合的定義」と「学校教育における定義」の二つを提案するに至り、1987年の第9回研究大会にて提案・採択された。二定義の関係は、総論と各論との関係にあり、将来、職業的・社会的諸機関ならびに産業においても、総合的定義の具体的展開として、それぞれの指導活動に対応する各論的定義がなされることを期待するとされている。
総合的定義
進路指導は、個人が、生涯にわたる職業生活の各段階・各場面において、自己と職業の世界への知見を広め、進路に関する発達課題を主体的に達成する能力、態度等を養い、それによって、個人・社会の双方にとって最も望ましいキャリアの形成と職業的自己実現を図ることができるよう、教育的・社会的機関ならびに産業における専門的立場の援助者が、体系的、継続的に指導援助する過程である。
- <註>
- (1)
- 「進路指導」は公共職業安定所、保護矯正機関では「職業指導」である。
- (2)
- 「各段階」とは例えば、探索期、確立期、維持期など、または青少年期、中高年期のような時間系列的なとらえ方。「各場面」は例えば、家庭、学校、職場など。
- (3)
- 「能力、態度等」には、能力、知識、技能、技術などの認知的側面と性格、興味、価値観、態度などの情意的側面を含む。
- (4)
- 「キャリア」とは、ひとりの人が生涯にわたって踏み行き形成する職業経歴の全体をいう。
- (5)
- 「教育的機関」には、小、中、高、大、高専、専修などの学校、社会教育機関、職業訓練校などを含む。
- (6)
- 「社会的機関」には、官民の職業紹介、社会福祉の機関のほか保護・矯正の機関を含む。
- (7)
- 「産業」には企業、官庁、団体等を含む。
- (8)
- 「専門的立場の援助者」には、学校の進路指導担当者、職業安定所の職業指導官、企業・組織の人事・労務・教育担当者、キャリア開発プログラム担当者を含む。
学校における定義
学校における進路指導は、学校教育の各段階における自己と進路に関する探索的・体験的諸活動を通じて、在学青少年がみずから、自己の生き方と職業の世界への知見を広め、進路に関する発達課題を主体的に達成する能力、態度を養い、それによって、自己の人生設計のもとに、進路を選択・実現し、さらに、卒業後の生活において、職業的自己実現を図ることができるよう、教師が、学校の教育活動全体を通して、総合的、体系的、継続的に指導援助する過程である。
- <註>
- (1)
- この定義は総合的定義の各論に当たる。また職業的安定法の「学校の行う職業指導」に当たる。
- (2)
- 「在学青少年」は小学生以上のすべての教育段階に在学する児童・生徒・学生を意味する。
- (3)
- 探索期、体験的活動には、生徒理解、情報提供、啓発的経験、進路相談、進路実現への援助、追指導、評価、関係機関との協力などの専門的諸活動を含む。
- (4)
- 「能力、態度等」には能力、知識、技能、技術などの認知的側面と性格、興味、価値観、態度などの情意的側面を含む。