ミッション・ステートメント

日本キャリア教育学会40周年記念
ミッション・ステートメント

日本キャリア教育学会では、学会創立40周年の節目を迎えるにあたって、ミッション・ステートメントを示すことになった。変化の激しく先行き不透明な社会の中で、2017年告示の小中の学習指導要領にキャリア教育が明記され、今後のキャリア教育について学会の考えを示す必要が生じたからである。常任理事会及び吉本圭一、藤田晃之、辰巳哲子各会員を検討ワーキングとして、常任理事の下村英雄会員が中心になり半年の検討をかけたミッション・ステートメントは、2018年9月9日の2018年度第1回理事会にて承認されるに至った。

そこで、日本キャリア教育学会創立40周年記念誌の冒頭にミッション・ステートメント示す次第である。

前文

日本キャリア教育学会は,その前身たる日本職業指導学会を発展的に改組することにより,1978年に成立した日本進路指導学会が2005年に改称し,現在に至るものである。その淵源はさらに古く、1927年にわが国初の職業指導の研究・実践団体として設立された大日本職業指導協会にまで遡る。この連綿たる歴史の中で、本会が、過去に職業指導・進路指導の啓発・普及・促進に果たしてきた役割は大きい。

特に、本会は、会則第3条において、その目的を「キャリア教育、進路指導、職業指導およびキャリア・カウンセリング等に関わる研究と実践の充実・向上を図る」ことと定めている。この目的の達成に向けて、年次研究大会及び研究セミナーの開催の他、学会誌の発行、キャリア・カウンセラーの資格認定、国内・国外の関係諸団体、諸機関との研究・実践上の協力等の事業を長年にわたり行ってきた。その活動の蓄積は、日本のキャリア教育の基礎を造り、基盤となり、広く社会全体に大きな影響を与えたといえよう。

しかしながら、昨今、人生100年時代が構想され、超長寿社会における人づくりおよびそのための社会・経済システムのあり方が各方面で論じられている。また、社会の変化はますますスピードを増し、テクノロジーの進化やグローバル化の急激な拡大により、以前にもまして複雑な様相を呈しつつある。こうしたなか、未来ある子供たちは勿論、あらゆる世代の人々が、変化と向き合い、自己の可能性を発揮し、より良い社会の創り手・担い手として、自らのキャリアをさらに積極的に構築する時代となった。

これまでも激しい時代の変化の中で当学会を導いた先達の精神を忘れず、今また、未来に向け果たしうる使命とは何かを、本会会員の全てが改めて自らの活動を振り返り、点検し、省察することが不可欠である。その際、キャリアの構築を阻害する格差、差別や排斥など、社会正義の観点から新たに取り組む課題が明確となってきている。

もとより、キャリア教育に関心をもつ我々は、進路指導、職業指導のみならず、キャリア・カウンセリグ、キャリアコンサルティング、キャリア・ガイダンス、職業教育、産業教育等の関連領域にも等しく関心をもつものである。これら関連領域に改めて学び、ともに歩み、誰もが希望をもって自らのキャリアを構築できる新たな未来を切り開くためにも、いま一度、本会および会員ひとりひとりがなすことを確認し、今後の活動の指針とするため、ここに学会創立40周年の記念すべき年に、本会としてミッションを掲げるものである。

キャリア教育の基本原則

  1. キャリア教育は、生涯にわたる取り組みである。従来、学校教育段階もしくは就労・職業訓練への移行時に行われてきたが、この変化の激しい社会状況では、キャリア教育を、生涯にわたる生活、学習、就労の全てで提供する必要がある。特に、社会人になった後も移行機会が増えることが考えられ、個人は自らのキャリアを自分のものとして考えることが求められる。そのための準備、社会人になったのちのキャリア教育の提供が必要となる。
  2. 年齢、性別、人種、民族、思想、障害、性的指向等によらず、また、本人の就労形態、職業の違い、地理的な距離、報酬の有無、労働市場の状況にかかわらず、誰もが適切な資質能力を有する実践者からキャリア教育を受ける権利を有する。
  3. キャリア教育は様々な主体によって提供することができる。その主体には、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、大学、短大、専門学校、矯正施設、地域、NPO、公的機関、職業安定所、自治体、経済団体、企業などが含まれ、かつ、これらに限定されるものではない。
  4. キャリア教育を必要とする場合、適切な資質能力を有する実践者からこれを受け取るべきである。実践者は、最新の優れたキャリア教育を提供するために、あらかじめ専門的な養成教育を受けるだけではなく、継続的な研究と修養が必要である。
  5. キャリア教育の実践者が担うべき責任は、個人に対して直接的に指導や支援等を提供することによってのみ達成されるものではない。実践者は、各人のキャリア形成に影響を及ぼす関係者や関係機関等のあらゆる側面に対して必要な改善を促すことができる。

キャリア教育の目的

上記の基本原則のもと、キャリア教育の目的を「個人が生活し、学び、働く際の選択や意思決定および適応の支援を行うこと」とする。

具体的な活動目標

上記の目的は、以下の事柄を支援することで達成される。

  1. 様々な観点から、各人のキャリア形成に関わる自己の個性、知識、欲求、価値、スキル、能力を理解し、成長し続けること
  2. 他者と適切に関わり、社会に適応し、協力して新たな社会を作り上げること
  3. 自分のキャリアに関する多様な選択肢を自ら探索すること
  4. 将来のキャリアについて熟考し、計画を立てること
  5. 適切に社会に参画し、労働市場に参入すること
  6. 学ぶ意欲や働く意欲を醸成し、向上させること

日本キャリア教育学会のミッション

  1. 全ての人に、適切な資質能力を有する専門家から、キャリア教育が提供されるようにすること。
  2. 教育や労働における多様性、公平性、公正性を求める社会正義の問題を取り扱う研究活動および実践活動を行うこと。
  3. 質の高いキャリア教育の実践を保障するため、政府・行政機関等を含む関係諸団体、諸機関と協働しつつ活動すること。
  4. キャリア教育の実践者に求められる資質能力を明らかにするとともに、その能力向上を推奨・支援し、必要な資格等の取得を奨励すること。
  5. キャリア教育を評価する手法を研究・開発すること
  6. キャリア教育の適切で効果的な制度・手法・ツール等を整備するため、研究・実践・政策提言の各分野に参画すること。
  7. 倫理綱領に従って実践者の倫理規程を採択し、遵守すること。

2018年9月

日本キャリア教育学会 会長 三村隆男