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日本キャリア教育学会ニューズレター 第107号(2018.12.5発行)
発行:日本キャリア教育学会 情報委員会
https://jssce.jp/
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■ 【書 評】『グループ・キャリア・カウンセリング』
(渡部昌平(編著)金子書房 2018)
駿河台大学 杉本英晴
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キャリア教育・研修・支援を行う際,設備や予算,時間などの資源が有限
である以上,教育・支援の効率化を図ることは非常に重要です。そのため,
たとえば大学であれば,キャリア教育・支援の導入段階に,大人数を対象と
できる講義や学部横断的に学年全体を集めるガイダンスを行っていきます。
ただし,そうした高い効率性が想定された教育・支援で十分な効果が得られ
るのは一部の主体的な学生であり,受動的な学生には十分な効果は得られま
せん。また,参加しない,参加できない学生も少なからずおり,そうした学
生への教育・支援の効果を担保するためにゼミやキャリアセンターでの個別
指導・面談という効率性の低い個別対応でフォローせざるをえないという大
学が多いように思います。
こうしたキャリア教育・研修・支援における効率性と効果性の相反的関係
を考慮しつつ,組織・機関として教育・支援システムをどのように調整する
かは喫緊の課題です。本書の副題にも「効果的なキャリア教育・キャリア研
修に向けて」とあるように,全体でも個別でもない「グループ」を介した教
育・研修・支援の充実を図ることは,こうした課題を打開する以上の可能性
を秘めています。大学でキャリア教育・支援に携わる者として,また,友人
グループがキャリア形成を阻害する影響について研究し,いかに友人グルー
プという資源をキャリア教育・支援に活かすことができるかを考えてきた者
として,本書の内容は大変興味深く,また非常に勉強になりました。
本書は,「グループ・キャリア・カウンセリング」の構成要素であるキャ
リア・ガイダンス,カウンセリング,そしてグループワークなどの理論的な
概説(1章)にとどまらず,臨床心理学的観点からの示唆(2章)や「グル
ープ・キャリア・カウンセリング」のスキル(3章),米国での「グループ
・キャリア・カウンセリング」である「キャリア意思決定グループ」の概説
(4章),日本の大学での実践例(5章)という豊富な内容で構成されてい
ます。こうした概説書は,内容が比較的「理論」に偏りがちなものも多いよ
うに思いますが,全体を通して,「グループ・キャリア・カウンセリング」
の「理論」と「実践」がバランス良く構成されていて,研究者にはもちろん
のこと,現在の支援や実践を理論的な背景をもとに改善したいという支援者
や実践者にも有益な示唆がちりばめられています。また,カウンセリングが
必要な人々に限らず,キャリア発達の促進が求められる学生への適用可能性
も示されており,その適用範囲の広さや効果性の高さは注目に値します。
その上で,「グループ・キャリア・カウンセリング」を実践する「ファシ
リテーター」の難しさとともに,訓練と準備の必要性が強調されています。
確かに,日本の現状として「グループ・キャリア・カウンセリング」を普及
していくための教育システムは不十分です。こうした指摘を本学会で真摯に
受け止め,キャリア教育・研修・支援を充実させる教育システム構築に取り
組む必要があるのではと強く思います。
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■ 【コラム】障害者就労について思うこと
横浜市立二つ橋高等特別支援学校 今井裕代
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障害者雇用の水増し問題が取り沙汰され、障害者の就労のあり方が注目さ
れている。私が勤務する学校は、市内3校ある高等特別支援学校の一つで、
軽い知的障害等の生徒が職業教育を中核とした高等部教育を通して、卒業後
の企業就労による社会参加や自立を目指している。職業教育では、進学や福
祉的就労ではなく、企業就労100%を目標に3年間で4つのコースを学ぶ。
同時に、1年次から現場実習を行い、学校で培った力を現場で実践し、力を
養うようにしている(詳しくは本校HP参照)。
昨今の生徒には、次のような傾向が見られると感じる。①障害特性の多様
化、②知的能力の低下、③個別対応が必要な生徒の増加、④経験不足による
社会性の欠如、⑤支援が必要な家庭の増加、などである。生徒はすべて障害
者手帳を有し、その多くは小中学校の個別支援学級で学んできた。そんな生
徒達が本校に入学すると、大きな声での挨拶練習から始まり、指示を理解し
て作業を長時間行い、連絡・報告・相談を求められる。今までの生活とのギ
ャップから初めは授業参加が難しい生徒もいるが、次第に慣れていく。
日々の生徒達との関わりの中で疑問に思うことが幾つかある。①そもそも
障害を持った15歳の生徒に就労意欲が育つのか、②自分の障害特性を理解し、
どの程度克服又はカバーする力を身に付けられるのか、③できると期待して
も限界があり、企業就労には適さない生徒もいるのではないか、④企業就労
を目的とするあまり、逆に生徒を追い込んでいるのではないか、⑤たとえ就
労しても働き続け、一人の従業員としてスキルアップしていくことができる
のか、などである。
これらの疑問に未だ明確な答えは出ていない。しかし、個々の生徒が将来、
豊かな生活を送るためにはどんな進路選択がよいのか、それを第一に考えて
日々の支援にあたりたいと考えている。
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