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日本キャリア教育学会ニューズレター 第96号(2018.1.12発行)
発行:日本キャリア教育学会 情報委員会
https://jssce.jp/
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■ 【ご挨拶】日本キャリア教育学会 三村隆男会長より新年のご挨拶
「年頭にあたって」
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明けましておめでとうございます。晴れやかに新春をお迎えのこととお喜
び申し上げます。念頭に暮の話で恐縮ですが、多くの日本人がベートーヴェ
ンの「第九」で年を越します。その合唱部分の歌詩(シラー作)に以下があ
ります。
Deine Zauber binden wieder, 神の力が結び付ける
Was die Mode streng geteilt, 時代が流れて分け隔てたものを
Alle Menschen werden Bruder, あらゆる人々は同胞となる
Wo dein sanfter Flugel weilt. 神の優しい庇護のもとで
(※機種依存文字を含むためウムラウトなしで表記)
「あらゆる人々は同胞となる」の部分は、1785年段階では Bettler werden
Furstenbruder(物乞いをする人が王子らの同胞になる)となっていますので、
時代の流れが分け隔てたものは、身分や貧富の差を指そうとしたことが分か
ります。
キャリア教育の、貧困、差別、格差、排斥などに取り組み、一人一人が人
間としての尊厳を保ち、キャリアを形成していくことを支援する営みとこの
歌詩の類似性を感じながら、私はこの曲を毎年聞いています。
人によってはキャリア教育について私とは異なる見解をもっている方も多
いかと思います。キャリア関連語句について言うならば、次期学習指導要領
には「キャリア形成」が新たに入り、教員の人材としての育成指標に「キャ
リア・ステージ」との考え方が導入され、厚生労働省は、「キャリア形成促
進助成金」の支給対象となる人材育成制度の一つに「セルフ・キャリアドッ
ク制度」を組み入れるなど、「キャリア」という語句も多彩な使われ方をし
ています。まさにキャリア関連語句の氾濫時代を迎えたとも言えます。
当学会はかつて日本進路指導学会の時代に定義委員会(委員長藤本喜八先
生)を組織し、進路指導の定義を1987年に総合的定義と学校教育における定
義に分け、第9回研究大会総会にて提案・採択しています。
2005年に日本キャリア教育学会と改称し、一定時期を経た2010年に研究推
進委員会(委員長三村隆男)によって「名称変更後の日本キャリア教育学会
の研究・実践のあり方について、学会員の意識を調査し、学会の今後の研究・
実践の方向性について考察する」を目的に学会員のアンケート調査を実施し
ました。同アンケートでは、1987年の定義に触れ、日本キャリア教育学会と
しての語句の定義について自由記述を求めたところ「キャリア、キャリア形
成などキャリア教育の視点を踏まえた定義づけを行ってもらいたい」などの
回答を得ました。(※)
年頭にあたり、キャリア関連語句の氾濫時代を迎えた今、日本キャリア教
育学会として、学会名称に包含されたキャリア教育をはじめキャリアや関連
語句について議論する時機に来ているのではないでしょうか。さらに広げる
と、IAEVGが研究大会ごとにコミュニケを発信するのと同様に、日本キャリ
ア教育学会がキャリア教育の研究や実践を通して何を実現しようとしている
のかミッションを提示することも考えられます。ニューズレターを通じ皆さ
んのご意見をお聞かせいただければと思います。
皆様にとって歓びの多い一年となることをお祈りいたします。
※進路指導の定義については、学会のHPの「学会のあゆみ」に掲載させてい
ただき、議論の材料としていただきたく思います。
https://jssce.jp/about/history/society_history/
また、2010年実施のアンケート結果は、キャリア教育研究第30巻第2号(2012)
61-73頁に掲載されています。
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■ 【書評】『高等専修学校における適応と進路
-後期中等教育のセーフティネット』
(伊藤秀樹著 東信堂 2017)
国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センター 立石慎治
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キャリア教育についての真理を知りたい、とはこの領域の研究に携わる我
々が共通して持つ欲だと思う。そのため、アンケートデータ等を以て、一般
化可能な知見に迫ろうと日夜努力するのもまた我々のならいだ。しかし、キ
ャリアが多分に個別性や一回性にまみれていることを思い出すとき、統計的
に把握しようとすると見過ごしてしまうような少数の者たちに思いをいたす
ことがあっても良いように思われる。
「高等専修学校という学校種の名称を耳にしたことがあるだろうか」との
問いかけで始まる本書は、「非主流の後期中等教育機関」の中でも高等専修
学校に焦点を絞りながら、困難を抱えた生徒たちの学校適応と進路形成を支
える実践と、その中で新たに直面する困難を描き出している。
定時制高校・通信制高校・高等専修学校・サポート校といった「非主流の
後期中等教育機関」になぜ着目するのか(第1章)、そうした各学校種の実
態はどうなっており(第2章)、どのような者を受け入れているのか(第3
章)を整理したのち、高等専修学校Y校の事例研究に入っていく(第4章~
第8章)。その豊かな記述をここですべて紹介することは筆者の手に余るの
で、その一端だけでも触れてみたい。「不登校経験者の登校継続」を扱った
第5章では、対人関係によって不登校に陥った経験をもつ生徒たちが、今度
はその対人関係によって登校できるようになっていくメカニズムが描かれて
いる。そこでは、過去の学校経験による「『痛み』の共有」や「自閉症の生
徒との共在」、「密着型支援」、「生徒間関係のコーディネート」が生徒の
登校を支えることが詳らかにされる。本書が白眉なのは、こうした環境が登
校継続にポジティブに作用する一方、Y校卒業後との環境とのギャップから
早期離職・中退に加担しているおそれを視野に入れているからであろう。そ
の点に関する考察は、ぜひ本書を手にとって確認してほしい。
書評といえば、最後に当該書籍の限界を指摘するものが多い。ただ、本書
の書評の最後に申し添えるのに相応しいのは、自身が取り組んできた研究の
中で何を見ずに済ませてきたかという己の限界を省みることの大切さを本書
は教えてくれるということだろう。
なお、著者が自身のキャリアを振り返り、出身大学の後輩に向けたコラム
がウェブ公開されている(2017年12月末日現在)。本書と併せて御覧になる
ことをお勧めしたい。
『理科一類から文系研究者へ:まったく予想していなかったキャリア』
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/agc/news/71/change.html
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■ 【コラム】キャリアという「つながり」を振り返る公開講座
東北学院大学教養学部 萩原俊彦
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このコラムが掲載される頃、仙台は豪華景品で有名な伝統行事「仙台初売
り」を皮切りに、年明けの活気が漲っていることでしょう。本学で秋から冬
にかけ開催されたオムニバス公開講座『知的な「つながり」の旅』で、筆者
はキャリアを題材とした講座を行いました。人のキャリアは、自らの職業生
活の記憶の連鎖(つながり)そのものですから(下村,2013)、うってつけ
のテーマです。中高年の聴講者が多いこともあり、下村英雄先生の『成人キ
ャリア発達とキャリアガイダンス』を元に、成人のキャリア発達を講じまし
た。
講座では、キャリアの定義、現代のキャリア環境の激変、成人のキャリア
発達を研究する意義を論じた後、聴講者自身のキャリア・ライフラインを描
いてもらいました。あわせて、これまでのキャリアにおける危機とその克服、
後悔する点、良かった点なども振り返ってもらいました。その上で、現代日
本の成人はどのように自分のキャリアを振り返るのか、どの時期にどういっ
た浮き沈みを経験するのか、危機からの回復・離脱・乗り越えはいかになさ
れるかを解説しました。
公開講座であることに配慮してマイルドなワークのみを行ったのですが、
成人キャリア・ライフラインに特徴的な3つの傾向(全年代を通じて一貫し
たパターンのある類型/特定の年代のピーク後、再上昇する類型/特定の年
代のピーク後、下降する類型)や、ライフラインに影響を与える年代ごとの
要因などの研究成果は、聴講者の人生経験と符合するところが多く、関心を
持って聴いて頂けたようです。
長い人生で多くの時間と労力を費やす職業生活です。自分にキャリアと呼
べるようなものがあった、そこで色々な危機もくぐり抜けてきたことを振り
返り、他者にも認めてもらうといった承認の仕組み・制度を整えていくこと
はもちろん重要ですが、こうした講座を通じてそのきっかけを提供するのも
一つの貢献となることを感じたひとときでした。
引用文献 下村英雄 (2013). 成人キャリア発達とキャリアガイダンス―成
人キャリア・コンサルティングの理論的・実践的・政策的基盤― 労働政策
研究・研修機構
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