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日本キャリア教育学会ニューズレター 第91号(2017.8.9発行)
発行:日本キャリア教育学会 情報委員会
https://jssce.jp/
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■ 【開催報告】近畿研究地区部会 総会・研究会
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2017年6月18日(日)14:30~17:30に近畿研究地区部会の総会・研究会
が関西大学第3学舎D401教室で開催されました。研究会は「キャリア、ジェ
ンダー、アイデンティティ」を全体テーマとして、研究報告とパネルディス
カッションから構成されるシンポジウムとして実施されました。
研究会では家島明彦先生(大阪大学)より「企画趣旨」の説明があり、続
いて安達智子先生(大阪教育大学)より「ジェンダーとキャリア」と題する
研究報告がありました。
前半の研究報告では、日本における性別職域分離の問題が取り上げられ、
職業選択において男性は伝統的に男性が多くを占める領域に、女性は女性が
多くを占める領域に集中し、異性が優位な領域を避ける傾向がみられるとい
う調査結果が報告されました。また、VPI職業興味検査のMF尺度を用いて職業
に対するステレオタイプと自己効力を測定した結果、大学生の男女ともに男
性職は男性的、女性職は女性的と認識しており同性のイメージをもつ職業に
対する自己効力の方が高くなるという傾向が示されました。さらに最近の大
学生は、いざ自分自身の将来となると、非常に伝統的なキャリアパターンに
収束していくという報告がなされ、性役割態度との関連についての議論が展
開されました。研究報告後には活発な質疑応答も行われました。
後半のパネルディスカッションでは、ファシリテーターに安達智子先生
(大阪教育大学)、本庄麻美子先生(和歌山大学)、松下眞治先生(大阪市
立西高等学校)、コメンテーターに川崎友嗣先生(関西大学)、河崎智恵先
生(奈良教育大学)、コーディネーターに家島明彦先生(大阪大学)が登壇
されました。労働環境が変わっていく中でのキャリア教育の方向性、婚姻・
離婚・養子縁組又は離縁等の事由によって戸籍上の氏名に変更が生じた場合
の現場での対応、ジェンダーに関わる指導・相談事例、LGBTなど性的マイノ
リティの生徒・学生に対する現場での対応など、事例共有や解決策の提案な
どフロアを含めた活発な議論が交わされました。時間が限られており、それ
ぞれ十分論じるには至りませんでしたが、端緒を開くことができたと感じま
した。
(文責:流通科学大学 川合宏之)
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■ 【書評】
『実践家のためのナラティブ/社会構成主義キャリア・カウンセリング
―クライエントとともに〈望ましい状況〉を構築する技法』
(渡部昌平編著、高橋浩・廣川進・松本桂樹・大原良夫・新目真紀著
福村出版 2017)
弘前大学 松田侑子
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「キャリア・カウンセリング」は、それと明示される状況でなくとも、個
人の生き方に触れるという点で、誰もが一度は経験するといえる。「自分の
後ろを振り返れば道ができている」という言葉が示すように、私たちは日々
を生きていく中でいつの間にか「物語」を紡いでいるのであり、それを日々
意識することはないかもしれない。ナラティブ/社会構成主義アプローチで
は、そういう個人の「物語」に光をあて、それを自分の固定した視点からだ
けではなく、より豊かな「物語」として捉えられるようになることを目指し
ている。
キャリア・カウンセリングが行われる場面では、決して専門的な勉強や訓
練を受けてきた人ばかりが支援に当たっているわけではない。従って、援助
者としての熟達化をどのように図っていくのかは重要な課題であると思われ
る。本書の特徴は、こうした課題に二つの側面から向き合っている点にある
と感じた。一つ目は、キャリア・カウンセリングの初学者や、ナラティブ/
社会構成主義アプローチの初学者にも面接をリアルに思い描けるよう工夫さ
れている点にある。特に、関心を引くのは、著者の実践から得られた、生き
生きとした事例の提示やワークシートの紹介である。二つ目は、キャリア・
コンサルタントとしてすでに活躍している方々の語りを紐解きながら、ナラ
ティブ/社会構成主義アプローチとの出会いや、キャリア・コンサルタント
としての模索をありのままに示し、読者自らのキャリアを考えるきっかけを
提供している点である。
本書を読了したときに、本書の副題が端的にここで伝えたいこと、扱いた
いことを表現していると感じた。そのための一つのツールが、ナラティブ/
社会構成主義アプローチということだろう。クライエントの足元を照らしな
がら、少しでも今よりよい状況を生み出すこと、それを積み重ねられるよう
援助すること。これこそが、クライエントがまた新しいストーリーを紡いで
いく強みにつながることを本書は終始強調しており、多様な生き方が在り得
る現代にこそ必要な視点であると改めて考えさせられた。
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■ 【コラム】就職活動というトランジション
学習院大学人文科学研究科 小菅清香
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某大学のキャンパスにて。青々と茂る若葉の下で、黒々としたスーツに身
を包み、スマートフォンに目を凝らす学生たちがいます。彼らは目下、就職
活動中なのです。
6月1日、公的に選考活動が解禁されました。いよいよ就職活動も本番、
と言いたいところですが、リクルートキャリアの調査では5月1日時点での大
学生の就職内定率は35.1%。3人に1人はすでに内定を得ているとの結果です。
このような状況ですから、今から活動が本格化する学生の中には「乗り遅れ
た」と感じる方がいらっしゃるでしょうし、彼らを支援する方々の中にも
「動き出しが遅い」と評価される方が多いことでしょう。経団連の示す就職
活動スケジュールはほぼ毎年変更されますが、「一般的な就職活動のレール
にのらない(のれない)学生」問題は、例年の課題です。
では、彼らはどう動けばよかったのでしょう。従来の研究が導く内定をと
るための秘訣は、荒っぽく言えば「早期から」「志望を明瞭にし」「積極的
に動く」ことです。日本では特に「新卒」「採用スケジュール」の時間的制
約が厳しく、ある時期に適切な活動をしないとその後の就職活動が不利にな
ります。そのため早くに志望を決定し、その志望にむけて活動を多くする、
すなわち就職活動経験を積むことが、成果達成に重要とされてきたのです。
ただ一方で、やみくもな活動は単なる失敗経験の蓄積ともなりえ、ドロップ
アウトにつながるとの知見もあります。
巷に溢れる「就活マニュアル」や各大学での「就活ガイダンス」では「早
く」「多く」が推奨される傾向にあります。しかし実のところ、客観的なエ
ビデンスに欠けた意見も多いようです。「キャリア」を論ずる際には、「内
定」という一時点の成果を追い求めさせること自体が否定的に響くことがあ
ります。しかし、学生の一生を左右しかねない就職活動を、実証的な知見を
もって導こうとする姿勢が、今の我々には必要なのではないのでしょうか。
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