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日本キャリア教育学会ニューズレター 第89号(2017.6.13発行)
発行:日本キャリア教育学会 情報委員会
https://jssce.jp/
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■ 【開催報告】中部地区研究部会 第1回研究会
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平成29年5月21日(日)13:00~16:00に一宮市市民活動支援センター
AB連結教室において中部地区研究部会第1回研究会が開催されました。
研究会の講師は、石黒康夫氏(神奈川県逗子市教育委員会教育部長)、
演題は「 子どもの良さを伸ばす『認める指導』の組織的な推進 」でした。
石黒康夫氏は昨年の演題「変化をおこす技法~ミルトン・エルクトン博士
に学ぶ~」を講演頂き、参加者の熱狂的な支援、共感共鳴があり、時間が足
りない状態で、次回も必ず講師に呼びますとの約束で修了した経由があり、
今回の講演に繋がりました。サブタイトルは「石黒康夫先生180分ノンス
トップセミナー」で熱い講演が展開されました。
先生との出会いは、國分先生の日本スクールカウンセリング協議会の東京
セミナーの分科会に伊藤正秀氏と受講して、終了後二人で講師控え室に飛び
込み中部地区研究部会の講師をお願いして快諾頂いたこと始まりました。
講演は「認める指導」とは、背景となる考え方は、メタ認知能力強化の
原理、嫌子より好子、グリーンゾーンという考え方、中学校で用いた実際の
例、指導の基準(考え方)1、大切にする 2、素直にふるまう 3、話し
合って解決する 4、時間を守る 5、自分をコントロールする等、永年の
教育現場、中学校校長先生でのスキル、ノウハウに満ちた講演で来年に繋が
る受講者の共鳴を誘いました。
もっと時間が欲しいと皆さんが言われました。
私は来年も呼びたいと考えます。
(文責:日本キャリア教育学会 中部地区研究部会会長 長坂廣幸)
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■ 【書評】
『学校にいくのは、なんのため?
読み・書き・計算と学ぶ態度を身につけよう』
『「仕事」と「職業」はどうちがうの?
キャリア教育の現場をみてみよう』
『どうして仕事をしなければならないの?
アクティブ・ラーニングの実例から』
(稲葉茂勝著, 長田徹監修 ミネルヴァ書房 2017)
愛知教育大学 京免徹雄
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本三部作は、シリーズ「変わる!キャリア教育」として、現役の文部科学
省生徒指導調査官の監修のもと、刊行された。その最大の特色は、小・中学
生を対象にキャリア教育について解説した本だということに尽きる。写真や
図表が多く、文字にはすべてルビが振ってあり、さらに巻末に用語解説があ
るなど、大変に分かりやすい内容になっている。
教員向けの実践集や指導書は既に多く刊行されているが、子ども向けにつ
いて評者は管見の限り知らない。しかし、新学習指導要領で主体的な学びが
強調される中にあって、児童・生徒自身が学校で行われているキャリア教育
という活動が何であるかを知り、その意義を理解することは決めて重要であ
ろう。以下、その概要を簡潔に紹介したい。
第1巻では、学校の起源や学校の歴史、発展途上国を中心とする世界の教
育事情に触れながら、能力(読み・書き・そろばん)に加えて、主体的に学
習に取り組む態度を身に付けることの重要性が語られている。さらに、失業
後の就職にも触れ、そのために学校において将来を設計していなければなら
ないことも述べられている。最後に、全国キャリア教育研究会について紹介
されており、先生自身の学び続ける姿が提示されているのは、印象的である。
第2巻では、仕事、家計、職業、会社、産業といった主に経済に関わるキ
ャリア教育の主要概念が解説されている。特に、仕事とは役割のことであり、
係活動など日常での役割が将来につがなっていることが、実感できるように
なっている。また最後には、「楽しいキャリア教育の授業レポート」として、
アグリスクール、企業体験、観光ガイド、子ども門前市など7つの実践事例
が紹介されている。
第3巻では、大人が働く理由として、収入を得ること以外に「自己実現」
があること、また働く人の税金によって社会福祉などが成り立っていること
が説明されている。また、具体的なデータをもとに、卒業後の進路について
考えさせている。後半は、キャリア教育の授業レポートが3件紹介されてい
る他、先生がキャリア教育でどのような工夫をしているかが示されており、
子ども自身にキャリア教育を意識化させる内容になっている。
以上のように、多くの示唆に富んだ本シリーズであるが、気になる点もあ
る。全体を通じて「勤労の義務」が強調された構成になっているが、第3巻
ではこれが「ニート」「パラサイトシングル」「非正規雇用労働者」とセッ
トで登場する。確かに子どもにとって関心をもちやすいテーマであるが、
「社会的・職業的自立」=「正社員を目指すこと」という誤解を招かないた
めにも、若干フォローが必要ではなかったか。また、若者を使い捨てにする
企業が問題視される現状を鑑みた場合、「勤労の義務」だけでなく、「働く
人の権利」にも触れてほしかったと個人的には思う。
とはいえ、冒頭に述べた本三部作の価値はいささかも揺るぐものではなく、
キャリア教育を充分に認知してこなかった子どもや保護者に向けて、その全
体像を明らかにした貴重な書であることに変わりはない。学校や家庭におい
て、大人と子どもが本シリーズを手に取って、キャリアについて積極的に語
り合うことを期待したい。もちろん、キャリア教育の研究者・実践者にとっ
ても、「子どもにいかに伝えるか」を考えさせられる文献であり、一読をお
勧めしたい。
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■ 【コラム】LGBTとキャリア
日本福祉大学 矢崎 裕美子
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2年生対象の「キャリアデザイン基礎」という授業で、学生に自分のライ
フラインを書く機会を設けた。ライフラインは生まれてから現在までの感情
の変化をグラフ化するものだが、過去、現在、未来の連続性を意識してもら
うために、10年後の未来までを描くようにした。私は提出されたライフライ
ン約100名分を見ながら、ふと手を止めた。ある女子学生の記述である。
「大学卒業後は、数年働いたら結婚し、出産…」と未来の感情軸はどんどん
上がっていく。卒業後の未来として描くものとしては大変一般的なものだ。
しかし、彼女は本当にそのような自分の未来を描いたのだろうか、と疑問に
思った。
彼女は私のゼミ生でもあり,LGBT当事者であることは恐らく周囲にカミン
グアウトをしておらず、私自身彼女の言動から推測したのであった。ゼミの
最後のレポートは「自分のキャリアのあり方について、ゼミで学んだことを
踏まえて論じよ」というもの。彼女のレポートには以下のように書いてあっ
た。
「キャリアデザインの授業でライフラインを書いた時に周りの皆が何歳で
結婚して、子どもを産んでと言っているなか、結婚なんてできるのかもわか
らなくて、子どもなんて絶対にできないのだと分かっていて、どうしても自
分の未来が想像できなくて困った。…最近は日本でもパートナーシップ条例
として認められているかのように思える同性婚。なぜ許可がいるのだろうか。
いろんな疑問や不満が限りなくある。その中で自分のキャリアを考えるとい
うことは、自分の真ん中の部分を知るということ、人と関わるうえで変化し
ていくということだと思う。」
一人でつらさを抱えて、将来の見通しも持てないでいることに胸が締め付
けられたが、彼女が「人と関わるうえで変化していくこと」と自分を捉え、
「卒業後は、自分と同じようなLGBTの人たちを支援できる仕事をしたい」と
レポートを前向きに締めくくったところに希望が持てた。そしてそのレポー
トを何回か読んでいるうちに、彼女は周囲にカミングアウトができないので
はなく、しないのではないか。カミングアウトをしないこと自体が特別視さ
れるのでなく、この社会で自然に生きたいというメッセージなのではないか
と感じるようになった。
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